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住民から見た合併問題
北海道自治体学会総会 第1分科会 発表
(2002年6月30日)
1.住民から合併問題を見ると
2.生活機能と生活圏
3.生活圏の3層構造
4.地域経営におけるサービス供給の効率と効果
5.住民の役割と参加機会

1.

住民から合併問題を見ると

 地域はそこに暮らし活動している人によって支えられている。住民にとっての合併問題は、現在、将来にわたる生活に必要な公共サービスを提供する行政区域のあり方のみならず、生活の基盤となる就業機会や地域活性化とも密接に関わる地域の将来像がどうなるのかというテーマである。

2.

生活機能と生活圏

表1.生活機能と生活圏の例

生活を維持する機能

圏域の形成

住民選択――――――行政事務

就労

通勤圏

買い物

商 圏

教育

通学圏       通学圏

高校〜      (小中)

医療

福祉(介護)

通院圏

介護圏

ごみ処理

          ○

上水道

          ○

消防・救急

          ○

除雪

          ○

防災

          ○

 地域の生活は基本的に、買い物や通勤・通学、通院に加えて、ごみ処理や上下水道、消防などの行政サービスを始めとする様々な機能によって維持され、これらの機能はそれぞれ生活圏を形成している。ここでは、生活圏を「住民が地域に住み日常生活機能を確保し、地域社会を維持していく時に、住民が認識して行動する圏域」としよう。

 生活機能には、住民が自ら選択できるものと、行政が地域限定して提供しているものがある。後者には例えば、小中学校の教育や給食、ごみの収集処理、保健福祉、介護保険、上水道、し尿処理、消防・救急、除雪、防災などが含まれる。これらは、一つの自治体で供給されるものもあれば、複数の自治体が連携して供給するものもあり、各々の機能が重層的な生活圏を形成している。生活圏は、地域の人口構成や産業など社会経済環境の変化を受けて変遷している。

 例えば、マイカーの普及と交通網の整備が生活圏に及ぼした影響は大きい。マイカーの普及は住民の生活行動範囲を拡げ、生活圏が単一行政区を越える状況は全国で見られる。

 特に北海道の生活圏をとらえるとき、モータリゼーションの発達は欠かすことができない。自動車保有台数、平均トリップ回数/日、走行距離/日は、ともに全国を上回り、通勤、買い物、通院、レジャーなどの生活圏が拡大しているからである。その一方で、免許をもたない高校生や高齢者の生活圏は、公共交通の経営悪化の波に押されて制約されてきている。表1に、生活機能がつくる生活圏の例を示した。

3.

生活圏の3層構造


 生活圏を機能と広がりからみると、地域の生活圏は3層構造から成り立っていると言える。まず第1のレベルは人が住みつく条件があること。産業が成立し就業機会があるか、または年金など、とにかく所得を確保できること。北海道では産業構造の変化による就業機会の縮小、これに伴う若年者の流出によって人口減少がおこり、この条件が弱くなっている地域が少なくない。

 第2のレベルは、収入を得ている人々がその地域に住み続けられる条件(定住条件)が確保されているかどうかである。つまり、満足いく医療や教育などの生活サービスが提供されるかどうかは、重要な定住条件となる。このようなサービスの水準は上がっているため、一定レベルを維持することで定住性を高めることも可能だろう。

 第3のレベルは、地域の内外との交流ができるかということである。地域をつくるという住民意識はその地域の魅力を自覚したところから生まれると言われ、その魅力は外の目から気づかされることが多い。

 交流は観光やビジネス機会の創出などにつながり、就業機会を増やす可能性もある。その地域の将来を考える上で、どの条件を優先させるべきかによって、中心とする生活圏―行政区が異なる。まさに地域経営の視点が必要となってくる。


4.

地域経営におけるサービス供給の効率と効果

 地域経営の視点では、自治体は地域にある資源を民間部門(企業)、公共活動(NPOも含めて)にまず配分し、さらに公共部門に配分された資源を種々のサービスに適正に配分することによって、地域の住民生活の満足を最大にすることを主な目的として行動する。この場合、2つの側面が重要となる。

 一つは地域の資源を効率的に活用して公共サービスの水準をあげるという面である。地域資源とは財源は言うまでもなく、土地、人、建物、自然、環境、情報などが含まれる。きれいな川や空気までも含まれることもある。

 もう一つは、住民ニーズに最適なサービスの組み合わせを選択することである。これまでのように、自治体がサービス全てを提供するのか、あるいは企業やNPOなどとの協働によるのかも選択できる。

 合併議論では、総合的なサービス供給を前提とした効率的な規模が中心テーマとなり、サービスの内容や水準は基本的に一定と考えられている。他方、サービス供給では効果も見過ごせない。つまり、サービスに対して受け手(住民)が満足しているのかどうかである。

 効率は自治体が解決する問題なのに対して、効果は住民側のテーマである。住民が供給側に意見やニーズを提案できたり、サービスの内容や供給方法について供給側と対話したり、あるいは住民も共に供給するような双方向性(インタラクティブ)のある関係がつくられる程、効果は高くなる。

 特に、教育や福祉など人的サービスを、地域の優先課題とすると、このような関係を築きやすい狭い区域が重視される。一方で、地域振興や産業活性化を目指すと広域への関心が高まるだろう。

5.

住民の役割と参加機会


 住民をサービスの受け手つまり顧客とだけみると、「合併後のサービスのレベルはどうなるのか」、「料金負担はどう変わるのか」が決まらないと、住民に合併の説明ができないということになる。しかし。住民も行政とともに地域経営の担い手とみなすと、「今後サービスのレベルをどこに置くのか」、「そのレベルを維持するためにどのような地域資源を使って、どのように提供するのか」、「さまざまなサービスの中から何を優先させるのか」などを共に考え共に提供するパートナーとなる可能性もある。

 これまで広域の課題には、事務組合、協議会、広域連合などが対応してきた。これらは基本的に共同事務処理を目的としたしくみである。自治体は各地域を運営しながら、広域課題には分担金などを負担して対応してきたが、住民も含めた連携はほとんど経験していなく、未知の領域だろう。


過去の紹介記事
1.生活圏からみる広域のまちづくり